近畿地方も梅雨入りして、昨日は午後から
雨でしたが今日は午前中には止みました。
これから雨ばかり続くと、週末の趣味のロード
バイクで走られるかが心配です。
依頼者の方から相続登記のお話をお伺いし
ていると、自筆証書遺言に遭遇すること
があります。
検認手続を経ていない場合は、家裁への申立
手続から入る場合もありますが、自筆証書遺言
は遺言者の遺志というのが反映されていますので
その人柄が伝わってきて、興味深いものです。
しかし、法律的な解釈の側面からいうと、中々に
頭を悩ますものもありますが、自筆証書遺言の
中でも極々基本的な体裁の問題も出てきます。
2014年月報司法書士9月号で立命館大学
本山教授の論考で、いくつか裁判例を挙げてい
ましたので、ご紹介を少しだけ。
(京都地裁平成16年8月9日)
遺言者A 相続人X(原告)、Y(被告)
・3枚の用紙をホチキス止め
・1枚目に「H4、11、-12日」と記載
・2枚目に「H4、11、12日」と記載
・2枚目にAの署名・押印
・加除変更場所に押印無し
本遺言の内容は、X・Y・Yの子Bの
3名で全財産を分けるとの趣旨で、X
が3枚目に署名・押印がないこと、日付
が明確でないことなどを主張して、本件
遺言の無効確認を求めた。
本判決では、署名・押印について「必ず
しも1枚ごとになされる必要はない」、日付
について「平成4年11月12日を指すことは
容易に認められる」、加除変更について「民法
968条の方式に従っていないとしても、当該変更
がなかったことになるだけであり、遺言自体が方式
違背になるものではない」などとして、Xの請求を
棄却した。
(平成18年8月29日大阪地裁)
遺言者A 相続人 二男X(原告)、長女Y1・二女Y2(被告)
Aの遺言体裁は、以下のものであった
:
:
A ㊞
平成二千年一月十日書
Xは『平成二千年』という存在しえない日付が記載されており
、作成日の記載がない遺言書と同視すべきであり、無効である
等主張したが、判決では「平成二千年なる年が、暦上は過去に
存在しなかったものであることは明らかであるけれども、その
記載自体から、これが『西暦2000年』あるいは、これに対応
する『平成12年』を表示するものとして記載されたことが明らか
であると認める」のが相当として、Xの請求を棄却した。
本論考ではいくつか自筆証書遺言の体裁にかかわる判例が
紹介されております。自筆証書遺言の方式上の要件は、「全文
自書」「氏名自書」「日付自書」「押印」の4点を挙げておられます。
前段の例は、民法968条2項の論点になっていますが、本山教授も
述べられておられるとおり、通常の一般社会活動における契約内容
の訂正の方式と異なるものであり、遺言者が民法における本方式の
認識があることは稀でしょう。裁判例でも当該要件はかなり緩和され
ている方向に動いているみたいです。
日付の論点については、前段の例では裁判所の判断は社会通念上
妥当と感じる一方、後段の例は感覚的には裁判所の判断も妥当性が
あるように思えますが、本山教授が、『日付を純粋・単純な形式的要件
と解するならば、無効とする余地充分にあると思われる』とされておりま
すが、私も同意見で、自筆証書遺言に限らず遺言にとって【日付】は
重要な要素で、自らの遺言の撤回や変更を後に検討する際にも、問題
になることもよくありますので、厳格に解釈する方が妥当でないかと
考えます。
登記実務から申し上げますと、自筆証書遺言の内容で形式的要件は
充たされているものの、財産の帰属内容が不明確なものは過去の先例
等を調べた上、念のため管轄法務局へ事前に照会することもあります。
作成コストがかからない反面、遺言の効力発生後(死亡後)に問題を
生じさせる可能性を秘めている自筆証書遺言ですが、作成される際は
一度我々にご相談をしていただければと存じます。
司法書士法人高山事務所 司法書士梶原貴志